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根暗なマイハートのネジを巻け!

日本のデフレと物価高のパラドックス


円安が進む。貿易赤字が恒常的になっている。これは実体経済の話し。
株価は上がる。貿易立国である日本は円安が有利に働くと市場が考えている。日銀が金融緩和を進めると推測されている。これは投機筋の推測、実体に非ずだ。


なぜなら、食料60%、エネルギー96%を海外からの輸入に頼る日本では、円安による輸入品の値上がりは痛い。現に、韓国ではウォン安により電力会社が赤字なんだそうだ。


年始にふと、1995年に書かれた 超円高サバイバル読本 を手にした。
約18年前に書かれた経済書を今読むことは、まるでタイムカプセルを開けたような、答え合わせをするような感覚でとても興味深かった。
実際、1995年は1ドル79円台に達する超円高で、現在と似かよった状況にあり、今読んでも当てはまると思われる部分がある。


本書によれば、日本の貿易黒字は対外的にアンフェアなまでに強力であって、輸出を善とせず貿易相手国の経済成長に見合う協調的な輸出入のバランスで双方が成長すべきだと書いてある。
貿易黒字を減らすべきという外圧があり、さらには新興諸国の工業化により日本企業の競争力が低下することにより、「将来の円安〜160円台」こそが脅威とされていた。
ただし、当時から米国経済の低迷やドルの流通過多によるドル減価による円高要素もあると書かれていた。


実際は、労働規制緩和による非正規雇用の増加や、安価な輸入部材の利用や海外移転による国内産業の空洞化という傷を負いながらも企業はこの失われた20年を費やし、主力とされた自動車や特に半導体の分野での劣勢や情報通信産業や医療福祉関係への産業シフトが起きた。
さらに、米国経済の低迷やリーマンショックなどもあり、2013年の現在は、若干円安に触れるも歴史的な円高局面にある。

東京都の工業統計調査
1989年→2010年(21年間)
 都内の従業者数 72.2万人→32.5万人
 都内の事業所数  4.1万所→1.6万所
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/02/60l2h100.htm


なお、円高に企業が適応すべくコスト減や海外移転を進めれば、さらに円高になっていくと本書は指摘していた。なぜなら為替は貨幣取引の結果なので企業がその相場に対応すればそのバランスに振れた動きが強まるのは道理だというのだ。現在の円高を見れば本書の指摘は自ずと明らかとなったわけだ。


本書で驚いたのは”輸入”の視点。円高では輸入品が値下がりするため、本来はモノが安く買えるようになり「円高は、いいこと」の側面があるはずと指摘する。
現にドイツでは円高はいいこととされていたのだそうだ。理由はマルク建ての取引が多く、地続きの隣国に比較的気軽に買い物に行けたからだそうだ(ただし、EUによる通貨統合以前の話)。
その点、日本は円建ての貿易が4割であり、また海外旅行に年に1回か2回しか行かないのでは円高メリットは少ないかもしれない。


日本に円高メリットがない要因として、国内産業を保護する規制や高コスト体質があると指摘する。
エネルギーや食料分野などの規制により、輸入品が安く入ってこない構造にあるという。
また、土地の流動性が低く、公共部門、流通や運輸の効率化やコスト改善が進まず価格が高止まりし、さらには賃金が世界一高い水準にあることから、日本の物価は世界でもトップ水準に高かった。

知恵蔵2012によると「東京とニューヨークとの価格差が最大となったのは、年平均の為替レートが最も円高(1ドル=94円)となった95年で、東京の生計費はニューヨークの1.52倍。その後、円安を反映して、98年には1.08倍まで格差は縮小した。経済企画庁の「物価レポート'99」では、「内外価格差の是正には、規制緩和により、国内の競争を促進することで、国内価格を引き下げ、購買力平価を改善していくことが重要である」としている。 http://kotobank.jp/word/内外価格差 」


本書は警鐘を鳴らす。円安になっても大丈夫なだけ規制緩和や経済の合理化が進まなければ物価上昇で、高まる購買力平価に国民が耐えられず日本経済が立ち行かなくなる。世界一賃金の高い日本で、だ。


国際通貨研究所によれば、購買力平価は米ドルと比べたときにまだまだ高水準。デフレ脱却が叫ばれる日本で、だ。

2012年購買力平価
   128.17円/ドル(消費者物価)
      96.42円/ドル(企業物価)
78.68円/ドル(実勢相場)
   61.34円/ドル(輸出物価)


現在の為替相場購買力平価よりも通 貨高に乖離していれば輸出に不利な状況にあり、通貨安に乖離していれば輸出に有利な状況にあるといっ たように、為替相場がもたらす国際競争力への影響を知る手掛かりともなります。国際通貨研究所 http://www.iima.or.jp/research/ppp/index.html


このようなことから、日本の物価高とその原因である高コスト体質は残っているが、円高による輸入品の値下がりが国内の高コスト体質を打ち消していたため、国民の購買力が維持されてきたという理解ができそうだ。
したがって、今後、円安にシフトした際に賃金上昇を伴わない物価上昇を招く恐れがある。だとしたら規制緩和や高コスト体質の是正、非効率産業から新産業への移行が急務である。


失われた20年と言われるこの期間に、日本も指をこまぬいて居た訳ではない。
以下、それをみて行きたい。


公共部門では、奈良女子大学 澤井勝名誉教授によれば「地方公務員の数がこの20年間で15%減員し非常勤職員が3割となっている。http://t.co/VNsFgq94 」
さらに、小泉内閣における”官から民へ”の号令のもと、PFI指定管理者制度により公共部門への民間参入が進んだ。


金融再編もあったし、日経4946メルマガによると「2002年から10年までに製造業153万人減、建設業120万人減。情報通信38万人増、医療・福祉179万人増」と産業のシフトが進んだ。
流通分野では、大企業の参入から改変が進み大量の労働者が放出されたと本書は指摘する。


改革が進まないように見える分野もある。
食料分野では、高い関税に加え戸別所得補償など、高価格を存置する政策がいまだ強いが、食料は外交・安全保障に関わるだけになんとも言えない。


エネルギーの分野では2011年東日本大震災まで硬直的な供給体制が存置されたが、震災を契機に再生エネルギー導入が本格化しそうだ。


世界一高いと言われた賃金は、平成23年度労働経済白書によると「2002年の平均給与月額34.3万円、2010年は31.7万円(7%減)」


本来は、歴史的な円高によりもっと物価が下がり、相対的に購買力が増加して国民の生活が豊かになるというシナリオがあったかもしれない。
しかし、実際は、物価は横ばいで賃金は下がった。非効率産業の規制による保護や高コスト体質が維持されてきたのが現状だとすれば、今後の円安局面、さらには安倍総理の進める物価高政策が経済にきしみを与えるだろう。


言い換えると、日本はこの20年で贅肉が削がれ、産業の競争力は研がれたのであれば、その上での円安と物価上昇ならバラ色の未来が待つだろう。その上での金融政策なら実もあるだろう。


労働経済白書によると、20代の正社員で自身の収入のみで生活している者の割合が50%程度。
財務省資料によると、1985年には15%あった国民貯蓄率が2008年には2%まで下がった。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2010_04.pdf


現在、国民生活は厳しい。
政府の財源も限られている。
TPP、ASEANAPECなど国際的な取引環境のルール化も目前である。


規制緩和や産業のシフトなど未来の処方箋は、ある産業に従事する国民の生活に、さらに影響を与えるインパクトを持つ可能性があるが、悲観的観測を超えて、物価上昇のスパイラルから投資が進み経済の好循環が進むことを期待し、私も国民として社会人として出来る事はやりたい。