I me Mine

根暗なマイハートのネジを巻け!

第3楽章〜モーツアルト

モオツアルトは、主題として、一息の吐息、一息の笑いしか必要としなかった。・・・彼は何もわざわざ主題を短くしたわけではない。自然は長い主題を提供することがまれだからにすぎない。(小林秀雄『モオツァルト』)


モーツアルト誕生250周年のこの年ももうすぐ終わる。
その音楽は、簡単にいうと“タンタカタッタンタン”である、『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を聴いてみよ。『フィガロの結婚』の序曲を聴いてみよ。
音楽が突っ走った後で“タンタカタッタンタン!”で前のめりに転ぶように終わる。
人生も“タンタカタッタンタン”と前のめりに転んだ。




モーツアルトの人生
この人は、「ザルツブルグは僕には狭すぎる」と言って家を飛び出し、パリに行くが仕事がみつからず、母は他界し、女性にフラれ、故郷に帰っても大司教に優遇されず、貧乏しながら曲を書いて*1、フラれた女性の妹と結婚して生涯愛し、やっと『魔笛』がヒットしたと思ったら、父が死に、不気味な男に『レクイエム』の作曲を頼まれ、おそらく初めて音楽で己の感情を表現*2し、35歳で病に倒れるという人生を送った。*3




モーツアルトの聴き所
この人の曲を聴いていつも思う。印象深い箇所は短く、曲全体について振り返るとあまり覚えていないことが多いと。
自然界にあるような自然な旋律なのかなと思う。悪く言えば聞き流しやすい。
聴くよりも弾く方が楽しい音楽なのかも知れない。*4


だから誤解を恐れずに言えば、モーツアルトはベスト的CDで、“いいところ”だけを聴いても良いのではないかと考えている。


■MEMO ラフマニノフは止めろ〜
映画「シャイン」クラシック全曲版
映画『シャイン』で、主人公デヴィッド・ヘルフゴットの父親が「ラフマニノフを教えてやってくれ」と頼むのに対し、ピアノ教師が「モーツアルトから始めます」と答える場面がある。
やはり、モーツアルトの曲は、指使いというか音楽の基本的な部分が多く詰まっているのだろう。
また、ピアノ教師から主人公を奪い返す父親に対し、「ラフマニノフは止めろ〜早すぎる」とピアノ教師が叫ぶ場面もある。
ラフマニノフはロマン溢れる作風で、音楽に感情を込めるタイプだ。


モーツアルトのプロフェッショナル
モーツアルトは、音楽は耳に良いものであるべきという信条を持っていた。
「情熱というものは、どんなに烈しかろうと、けっして人に嫌な気持ちをおこさせるところまで表現すべきではないし、・・・つまりどこまでも音楽でなければなりませんから」と手紙に書いている。
音楽は音楽として人々に楽しまれるものであり、音楽で何かを表すということをしなかったのだと思う。


一方で、音楽で何かを表現した作曲家の代表は「人生」を表現したベートーベンだろうか。
ヴィヴァルディは『四季』を表現した。ラフマニノフはロマン?を。サンサーンスは、『動物の謝肉祭』で動物等を表現した。




モーツアルトのピアノ協奏曲
ラヴェルブラームスアインシュタインが高く評価していたように、モーツアルトはピアノ協奏曲がいい。
彼のピアノ協奏曲は、他の作曲家に比べると派手でも雄大でもないが、何か真に迫るものを感じる。
第20番第1楽章、第23番と第26番の第2楽章には、モーツアルト的な旋律から少し離れたところにある物語性や叙情性がある。




◆最後まで聴くモーツアルト
モーツアルトはベスト版でいいと書いたけれど、一曲通して聴かないともったいないのではないかと私なりに思っている曲を書いておく。
上記のピアノ協奏曲第20番、23番、26番のほか、交響曲第25番、第41番、ピアノソナタ第8番あたりも聴き所が多いので最後まで聴きたい。
有名な曲ばかりだが、多く演奏されている曲というのは、やはり良いのだ。クラシックは「裸の王様」の世界ではないと私は思っている。


□memo リパッティピアノソナタ第8番
モーツァルト : ピアノ・ソナタ第8番、J.S.バッハ : パルティータ
たまたま図書館で借りたCD。ピアノの音がいいし、一音一音のタッチを追いかけたくなる感じ。メランコリックでつい聴いてしまう。


モーツアルトと「美」
随筆『モオツアルト』で有名な小林秀雄によれば「美」とは「抗し難い力」 *5 だ。
その源は何なのだろうか。
モーツアルトは、ハイドンやバッハなど先人の音楽を徹底的に勉強して、多くを自作に活かしたといわれる。
そして、先人の音楽に「意外性」を持ち込むとともに、「輝くような明るさ」と「悲劇的な暗さ」の両方を表現し得た。
つまり、彼の音楽が“人間”の持つ「意外性」、「明るさ」、「暗さ」を備えた表現であるところに「抗し難い力」の源があるのだと私は考えている。


それが、{単純で純粋な音の持続}であって{誇張された興奮や緊張、過度な複雑、無用な装飾}でない謙虚なところがポイントであり、そのようにひっそりと存在しているのがモーツアルトの"美"だ。*6


と、言い切ったところで“タンタカタッタンタン!”と転ぶようにこの章を終わるもン。
次回は、「指揮者」id:horikita800:20070217
前回 id:horikita800:20061221#1166710101

*1:その才能から敵は多かった。

*2:アーノンクールがテレビで言ってた。

*3:小柄な男だったようである。爆笑問題の田中みたいな体型だったらしい。残念ながら玉木宏ではなかった。

*4:弾いて気分が良い曲というのは、私のギター経験からいうと、スピッツの『ロビンソン』や松任谷由実の『時をかける少女』『まちぶせ』、谷村新司の『いい日旅立ち』など。

*5:「美といふものは、現実にある一つの“抗し難い力“であって、妙な言ひ方をする様だが、普通一般に考へられてゐるよりも実は遥かに美しくもなく愉快でもないものである。」

*6:{ }内は小林秀雄の言葉を拝借