I me Mine

根暗なマイハートのネジを巻け!

直接対決

正月、実家に帰り母の病状を直接体感した。


まず、到着早々に「あれ、入院していたんじゃなかったの!」
母の中で私は、大怪我して入院中。
死んでなかっただけマシか。


そして、天井に向かって息子の回復を誰かに感謝していた。
そんな母が年末年始に数々の事件!?を起こしたのだ。




事件1 失踪


認知症の失踪をリアルに体験した。


大晦日「おじいさんの宝物を取りに行く」といって出て行った。
それまで家から遠くには怖がって行きたがらなかったため何気なく送り出してしまったのが失敗。
2時間以上しても戻ってこない。


さすがに気になって母の実家に電話すると「来ていない」という。
それで、父と車で探しに行くことに。
母の実家に差し掛かったところでタクシーが!
母が降りようとしている。


そこで気分は現行犯逮捕で母の身柄を確保したのだが・・・
父は、母が妄想をやりとげて納得することが重要と考え母を再び「泳がせた」


母が実家に入ってからしばらく待ち、頃合を見計らって、我々も合流。
親戚に「宝物などない」「変な行動をするとしまいには怒る」と諭されて、母もようやく納得した。
しかし私には、母が「周囲が結束して自分をどうにかしようとしているという不信」を捨てきれていないようにも見えた。


なんでも、電車とタクシーを乗りついで行ったらしい。
その程度の理性はあるようだ。




事件2 2階は危険?


真夜中、ふと目覚めると部屋に電気が付いており、母が自分を見おろしていた。
勝手に部屋に入ってきて、どれだけ居たのだろうか。


「2階は毒ガスをまかれて危険だから1階で寝ろ」という。


無視していると布団をとって1階に持っていってしまった。
それでも2階で粘っていると、母が折れて布団を2階に戻してくれて、
掛けてくれた。


「なんで言うことを聞かない」
「父の言うことばかり聞いてはいけない」
「せめて布団をかぶって寝ろ」


といって出て行ってくれた。
子どもに風邪を引かせてはいけないという理性はあるようだ。




事件3 失踪再び


年始早々、母の妄想がとまらない。
親戚がサリンを被り、目玉が飛び出して重態なので助けに行くと言う。


出かけたいけれど家の鍵を父に取り上げられているので、私に留守番していろという。
戸締りを心配するだけの理性は残っているのだ。


口で言っても母が止まろうとせず「わたしは狂ってなどいない」「なぜ分からないのか」などと言って出て行くので、私は手荒な真似をしたくなかったのだが、
力を入れて母の腕をとって引き戻した。
少し心で泣いた。


その後も出かけようとする母に、私は玄関の前に立ちはだかって直接対峙した。
母がすごい力で私を排除しようとしてくる。
その力に驚き、一人の人間の行動を制限することの難しさを感じていた。
拘束したり、体罰を与えたりする例を聞くが、あながち他人事ではなくなった。


結局、母が重態と言い張っている親戚の声を聞かせて納得させるしかないと判断し、母に自分で電話を掛けさせた。
すると、要領を得ない母の電話に、電話口に出た人がいたずら電話だと思ったのか切られてしまい、その後電話を掛けても出てもらえなくなってしまった。
母に電話を掛けさせた理由は、例えば父が先方に電話して母につなぐと、父が裏工作をしていると母が言い出すため。今回はそれが裏目に出た。


最終的には、母を車で、その親戚の家まで連れて行き、本人が無事であることを見せて納得させたのだった。




事件4 初詣で分かったこと

家族で初詣、外食でもと考えて、出発することに。


しかし、母は約束の時間になっても空に向かって「先生よろしく」「天皇陛下様ありがとうございます」などと会話をしていて一向に出かけようとしない。
でも、とても幸せそうだった。


1時間以上もぐずぐずしていたのだが、それはそれで母は嬉しそうだった。


初詣の際も、参拝の列に並んでいると一人大声で何事か叫んでいて周囲の人に気付かれているようだった。
人がいるところで騒がないよう、父に注意されると、自ら参拝の列を離れて、そこで「会話」を始めた。


基本的に妄想と会話すること意外は、周囲の状況が分かっているようなのだ。
初詣もしっかり出来て、外食も問題なかった。
ただ、幻聴との会話に夢中になってしまい父や私とのリアルな会話は成立しにくい。


しかし、話は聴いているようで関心があることには話に割り込んでくる。


たとえば、
父とドライブの話になり、私が「渋滞に巻き込まれたとき、母が途中でトイレに行きたい」ということにならないだろうかと心配すると、
「迷惑はかけないようにしています。」
と、小学生が先生に返事をするような口調で、母が会話にカットインしてきた。


また、私の結婚の話になると「誰かいるのか」と真剣な口調で会話に割り込んできた。




この日、母のスイッチの切り替わりもみた。
ライトサイドの母の妄想は、何か偉い先生や天皇陛下との会話で成り立っており、しかも話題は地球平和など壮大なテーマとなっている。
そのときは天井に向かって話し続けたり、外で叫んだりする。
「天地の神様、日本をお救いください」と叫んでいたこともあったという。


ダークサイドの母の妄想は、「毒ガスに襲われる」「誰かが家を乗っ取ろうとしている」など、自分や周囲に危険が迫るものとなっている。
そのときの母はとにかく動く。失踪したり、物を動かしたり。不安要因を実際に見て安全が確認できるまで止まらない。


この日スイッチが切り替わったのは、ドライブ中に救急車が逆走してきたため急ハンドルを切らざるをえなくなったとき、母に不安が走ったのか、母のスイッチがライトサイドからダークサイドに切り替わった。
こうなると、上記のような失踪モードとなり対応が大変となる。


いずれにしろ、母は常に何かと戦っている。




まとめ


(1)現状について
日常生活は普通にしている。食欲もある。
お風呂は「毛が抜けてしまう」と思い込んでおり長いこと入っていない。
正直少しくさい。
舌をぺろぺろしており少し一緒にいれば正気でないことが分かる。


炊事洗濯は自発的にしなくなった。父に指示されてやっと動き出す、ロボットみたいな状況になっている。
料理は普通にできるが、幻聴に心を奪われると鍋に火をかけたまま台所を外してしまう。
でも台所の清潔は保たれており、だらしなくはない。
なお、母に家事をさせるのは治療の一環だと父は言い張っている。
昔から亭主関白の父にあれこれ指示されてきて、それが原因かもしれないのに、精神に異常をきたした今でも父に指示され続ける母が不憫であり皮肉でもある。


また、いつ失踪するかわからないので、家に一人で置いておくのは少々不安である。
数ヶ月前までは「愛で治す」と言っていた父も「入院」という言葉を使いはじめている。




(2)母の治療について
母は数年来、精神科医が処方した薬を飲んでいたのだが、ここ数ヶ月止めている。
母によると「自分の頭がおかしいと思ったから薬を飲んでいたが、自分の頭がおかしくないと分かったから飲むのを止めた。」らしい。


しかし、母の回復には薬が重要と私は考えている。
なぜなら薬をのんでいた数年は症状が進行しなかったからだ。
問題は、どうやって母を病院に連れて行き薬を飲ませるかだが、そこは父にまかせて自宅を後にした私である。


父は父で、母を救えるのは自分しかいないと深刻に受け止め、すべて自分が対処すると言い切っている。
「私(子ども)が心配すること」そのこと自体が父の心配事になるから心配するなと健気なことを言っている。


しかし、皮肉なことに治療の不安要因として父の存在がある。
母は父のことを敵とみなしているようだからだ。
母は、父が周囲に母のことを悪く言っていると考えている。
父は母の財布を預かっているのだが、
「財布も、子どもも父に取られた」
と母がつぶやいているのを聞いてしまった。


でも、家族への不信感は認知症にとって一般的なことかもしれない。
やり方はあるのだと信じる。




(3)母と私について
母は、認知症というよりは、幻聴をきく心の病であると最近、私は思い直している。
そんな私は、母にリアルに対峙した結果、無力感を抱いてしまい、何の役に立てそうもない。
しかし、2階に寝るなといいながら結局はふとんを掛けてくれた母、私が煎れた茶を飲んでいる母、帰り際に「おにぎりたべるか」と自発的におにぎりを作ってくれた母は、やはり憎めない存在なのだ。
父母の関係性を考えたときに、父が母を病院に連れて行けなかったなら、最終的には私の出番になるのだろうと思う。


今年のテーマは「現実に向き合う」かな。
いろんな意味で。