先日、ヨドバシカメラで携帯電話を買った。
買う前からドコモに決めていたが、5万円近くする機能満載の最新モデルを買うか、最低限の機能で3万円前後の機種を買うか迷いながら、スペックに関する特段の希望もなく、とりあえず店内で機種を選んでいたのだが、どれを買ったらいいのか分からなくなって憮然として佇んでいると。。。
売り子の女の子が何人も話しかけてくる。うれしいな。じゃなくて、関心のあるGPS機能などについて質問すると、意外と知らなくてパンフレットで確認などして答えてもらっていたのだが、いまいちよく分からず、決め手も無く店内で迷っていた。
すると、突然忍び寄ってきたのは、韓国人風の相武紗季似の売り子さん。この売り子とのやりとりで、ソニーエリクソンSO905i*1を買うことになったのだが、それはこんなやりとりからだった。
まず、GPS機能について改めて尋ねると、何も見ないでスラスラと答えてもらえた。
そして、「何かご希望の機能はありますか?」と聞かれたので、「特段の希望はないので、安いものを買おうかと考えているが、GPS機能に関心がある。」と答えると、少し悩んでみせたあげく「それならSO905iが、今なら安く買えます。お買い得ですしGPS機能もあります。」ときた。
それは、店頭でチェック済みだったが破格の安値だったので、何か問題でもあるからだろうと勝手に判断して候補からはずしてあったので、「私の希望に沿っていますが、何でこんなに安いのですか?」と質問すると、売り子はそれには答えず「ボディーが赤色の機種は売り切れました。赤色きれいですよね〜」とうっとりと赤色の機種に見とれているのだった。
しかし、私はなぜか急にこの機種が気になってしまい、黒色を実機で試用してみると、ジョグダイヤルの反応が少し遅いような気がしたので、あれこれ電話帳検索のしかたを聞きながら使い勝手をチェックしていると、「黒色は指紋の跡が付き易いですね。」と言ってきた。たしかに、そんな気もするし意外に色の選択は重要な気がしたし、何よりこの売り子は信用に値するような気分になってきた。だから、この売り子さんから買って見ようと思ってSO905i白の購入を決定したのだった。
また、メモリーカードを購入するかと聞かれたときには、購入すると答えてしまった。機能は最低限でもいいと考えていたのにである。
さて、私は最近『影響力の武器(誠信書房)』を読んだのだが、この本でいうと、人に何かを売ったり交渉を有利に進める技術のことを「承諾誘導」という。
実は、本を読みながらついつい、この売り子とのやりとりを思い出してしまった。売り子の言動はある程度理論にかなったものだと気づいたからだ、それがマニュアル的なものによるのか、天然のものなのか経験によるものなのか分からないけれど。
だから、先のやりとりを『影響力の武器』の理屈にしたがって分析してみる。
まず、人が意思決定するときに影響力を与える「武器」として本書では、
- 比較
- お礼の気持ち
- 一貫性
- 社会的証明
- 好意
- 権威
- 希少性
などを挙げており、これらの影響を受けると人はボタンを押されて機械が反応するのと同じように「カチッ,サー」と、簡単に心を動かしてしまうのだという。
以下は、先の文章に対応して、それぞれどんな「武器」の影響を私が受けたのか、書いてみる。
突然忍び寄ってきたのは、韓国人風の相武紗季似の売り子さん。
統一された制服を着ていた。これは「服装による権威付け」「機種の説明を担当する店員という『肩書き』による権威付け」に該当する。
まず、GPS機能について改めて尋ねると、何も見ないでスラスラと答えてもらえた。
自分に有用な情報を与えてくれた「お礼の気持ち」と、専門的知識があると証明したことで、「機種の説明を担当する店員という肩書きによる権威付け」が本物であると私を信用させた。
少し悩んでみせたあげく「それならSO905iが、今なら安く買えます。お買い得ですしGPS機能もあります。」ときた。
これは、買い手と一緒に機種選定に悩むという協同作業をしてみせることで「協同による好意」を私に持たせた。
「ボディーが赤色の機種は売り切れました。赤色きれいですよね〜」とうっとりと赤色の機種に見とれているのだった。
売り切れと言う事実に「希少性」、他人も選んでいるという「社会的証明」。
「黒色は指紋の跡が付き易いですね。」と言ってきた。
セールストークでデメリットを敢えて言うことを、本書では「ウラのある誠実さ」といい、相手の信頼を勝ち取る有効な手段だとされている。この売り子の言動にウラがあったかどうかはともかくとして。
また、メモリーカードを購入するかと聞かれたときには、購入すると答えてしまった。機能は最低限でもいいと考えていたのにである。
ここには、人が自分の行為の「一貫性」を守ろうとする心理から、携帯電話を購入する決定をした以上、それに付随する購入に対する抵抗が少なくなった状況。また、数万円する本体の購入のあとに数千円のメモリーカードが非常に安い買い物だと錯覚する「比較」*2の承諾誘導がある。
と言う訳で、SO905iを購入したのだが、やはり「なぜ安売りしていたのか」は気になったので、家に帰ってからWebで調べてみた。
すると、クチコミ情報のHPからは「若干動きが遅い」などもマイナス情報が掲載されていたが、私の感想は”そんなことないじゃん”である。
これも、本書でいう「一貫性」の理論。自分で選択して購入するという自発的なアクションをした以後は、その行動を覆すような行動を人はとりにくいようだ。*3
と、言う訳で全部書けたかどうかわからないが、影響力の武器にしたがって、自分の行動を解説してしまった。
これは、決してヨドバシカメラやS905iを批判するような害意ある文章ではないし、そうならないように配慮したつもりなので、全部良い風に解釈して欲しいのであります。
- 作者: ロバート・B・チャルディーニ,社会行動研究会
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2007/09/14
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