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中国の指導者たち


キッシンジャー回想録 中国(下)

キッシンジャー回想録 中国(下)


キッシンジャー『中国』下の感想文(その1)


第一世代の毛沢東周恩来文化大革命の混乱と日米との国交回復を残し、第二世代の鄧小平が中国経済発展の改革を手掛け、第三世代の江沢民〜第四世代の胡錦濤はインフレ危機克服、WTO加盟・北京五輪など中国を国際舞台に載せ・独立独歩「平和的発展」路線、米中関係は緊密に。


中国は、毛沢東の時代に、キッシンジャー氏によれば2万人が餓死し、石原慎太郎氏によれば内紛で7万人が犠牲となった。ソ連は、山本美香さんによれば、石油と自治独立をめぐるチェチェン紛争で10万の死者を出した。何を言いたいか。独裁+資源+領土の危機を見える化すると10万人の命に相当する。


尖閣諸島の周辺の石油資源を巡り各国が「目を三角にして」いるわけなんだけど、海底資源を言うなら、実は太平洋沿岸や伊豆諸島から小笠原諸島が密である。
本屋で各種雑誌が海底資源を特集しているが、これが一番コンパクトで明快だゾ→三井物産戦略研究所 http://t.co/vKEhzAHN


キッシンジャー『中国』を読んで、坂本龍馬と鄧小平を比べたくなった - I me Mine (id:horikita800) http://t.co/ELiBoZHh


20年前、1990年に鄧小平が胸を張った農村の四種の神器(自転車、ミシン、ラジオ、腕時計が行き渡った)。それから20年、北京五輪などで成長を誇示し、リーマンショックや欧州危機では欧米に中国の資本が供給され支援する側に回った。しかし、今でも一億5千万人が貧困。


中国の共産主義は、生産を国が管理し、国が投資し、補助金により価格統制するシステム。それはお粗末な品質管理、工夫の欠如、過剰雇用であり経済の停滞と一人当たり所得の低下を招いた。←40年前の中国と今の日本が一部重なる。鄧小平は「中国は弱い」認め、それまでの絶対的テーゼであった毛沢東の評価も70%は良く、30%は悪かったと負に直視した。日本は変われるか。


冷戦時代は政治体制のあり方で国家が対立し、冷戦後はイデオロギーはさておき国益が国家関係を左右するようになり、現在は世界共通の価値(人権や環境問題など)で国際的な縛りがかけられる時代だとキッシンジャーは書く。中国はそれに反発するし、私も欧米の利益を一般化して押し付ける理論だと思う。


天安門事件の人権侵害が国際的に問題視され、米国民も中国を強く非難した。米国政府は経済制裁を発動すると同時に、ブッシュ大統領は安全政策上、中国との関係継続が必要と判断し、鄧小平に親書を送り、決して内政干渉ではなく、米国民は民主主義や言論の自由が不朽の価値と信じていると言葉を選んだ。


米国はアヘン戦争など一世紀に渡る列強諸国からの抑圧の記憶があり、人権問題などの外圧は「弱い者いじめ」と見なし、取り決めの破棄には過敏に反応する。交渉で獲得した権益からは一歩も引かない。台湾の李登輝総統が米国の母校で台湾を「わが国」と連呼した時の中国の反応は、外交官を引上げ、公式行事を中止し、東部沿岸で軍事演習を始めた。


天安門事件の際、米国と中国は人権問題で関係が悪化した。米国の介入を中国は一種の弱い者いじめとし、自国内に人権問題を抱える米国の思い上がりだと相手にしなかった。中国は長い歴史の中で自国の政治体制に自負を持ち、欧米がなぜ人権問題に介入するのか理解できなかった。


図書『不機嫌な中国』『中国の夢』は、パワーシフトが米国→中国に起きており、中国は「壮大な目標」を取り戻すべきという趣旨だが、これは中国政府の見解と一致せず理解に苦しむとキッシンジャーは述べた。しかし、パワーシフトは事実と思われ、何故キッシンジャーが腑に落ちないのか私が分からない。


米国と中国の二大国の時代は、第一次対戦前のイギリスとドイツの対立に重なり、互いが属国を囲い込む形で動くと先の大戦に何も学ばなかったことになるとし、キッシンジャーの答えは「太平洋共同体」構想。だとすれば、TPPは米国側の囲い込みであり、APECは中国側の囲い込みであり十分ではない。


ASEANのパワーバランス
http://d.hatena.ne.jp/horikita800/20121031#1351692052


ただし、本書はアジアの指導者が読むことを十分に念頭に置いていると思われるが、米国と中国の2大国時代と定義し、両国間が緊密であることを協調することに作為を感じた。


実際、米国は高い失業率や重い債務など凋落傾向にあるし、中国経済も失速気味であり、二極化というより無極化が正しい。正しくは、日本を含め軸足の定まらない現状での太平洋パワーバランスは流動的であるとみるべきであり、日本の政治家や学者は、もっと日本の存在感を出すべく本書のような発信をすべきだと考える。


本書は、太平洋における米中両国の存在感を高めることに成功しながらも、知的好奇心を多いにくすぐる瞠目すべき作品である。