I me Mine

根暗なマイハートのネジを巻け!

同床異夢


キッシンジャー回想録 中国(下)


キッシンジャー『中国』下の感想文(その2)


1.キッシンジャー『中国』を読むと、米中関係が想像以上に緊密で、妻の浮気写真を次々に見せられるような(知らんけど)気持ちになる。例えば、日本をどう処するべきか米中で話し合ったりしている。米国は日米安保を中国向けには「日本を孤立させると再軍備ソ連と組みやっかいになる」と説明。


2.日本の新聞を読む限りでは、日米関係ありきであり、我々が知る日米安保は中ソ共産圏の牽制だった。米国にとって日本の価値とは、米国にお金を貸し、ハイテク産業、軍事産業に貢献する技術力の提供。地政学的に言えば、日本は太平洋に浮かぶ米国の戦艦だとキッシンジャーは言う。米国が我が国というとき日本も含まれていると考えたら説明が付く。複雑な心境であるが。


国際政治を語る上で、日本の立ち位置とは?


3.欧州の国際摩擦は内輪揉めという「内輪」の枠組みを信用した上での駆け引きであるが、アジア諸国間には「内輪」といえる関係性はなく、国境をめぐって戦争も辞さない緊張関係にあるとキッシンジャーは分析する。そういえば、尖閣問題で何かの論調に「日本は世界市民ぶった対応をするな」とあった。国際法を持ち出し、国際社会の一員だと思って中国に当たると間違う。


4.国際関係は、ひとつの問題が片付けば違う問題が起きるもので、逆に問題が残る方がお互いの関係が継続するから都合がいいくらいだと、キッシンジャーの本を読むと思える。米中国交回復でも台湾問題が棚上げされた。日中間でも(なぜ田中首相自ら口火を切ったのか謎だが)尖閣諸島が棚上げされた。


5.尖閣諸島と鹿児島の間には千を超える島があり、日中トラブルの種が千個あるようなもの。だとすれば、棚上げには一理あったと思うが、海底資源が活用できないのは痛い。相手の主力選手をトレードで獲得し飼い殺しにするプロ野球みたいな戦術を中国は日本にしかけている。解決策…太平洋エネルギー機構?


6.米中という、自分たちは特別だとする例外論者の、異なったタイプを代表する二つの社会にとって、協力への道は本質的に複雑である。状況の変化は避けられず、現在の雰囲気では悲観的だ。だから両国の指導者には相互尊重の責任があり、共通の世界秩序を一緒に構築すべき。(キッシンジャー


7.キッシンジャーは、600ページの著書で結論が「太平洋共同体」の提案となっている。要するに中国がアジアを一極支配しますよと、アメリカが加わりバランス良い太平洋共同体を作りますよと、お為ごかしに言うけれど、本音は、成長するアジアを米国が取り込みたい。太平洋は米国と中国が仕切りますよと宣言する本書を手にして、そんなの当たり前だと思うなら、それがこの本の成功である。キッシンジャーは日本のことほとんど書いてない。米中が二大大国?冗談じゃない日本がいるぞ。そう発信する日本の政治家が何でいない。若い奴しっかりしろ!と石原慎太郎氏が言いたくなる気持ちにも一理ある。


米国の国益は日本の国益である。そうなのだろうか?


8.私は別に右傾化しようとしているわけではない。TPP,APEC,ASEANなど連携協定や域内ルールづくりは国益をかけた戦争のようなものだ。日本のスポーツが国際的なルール改正で不利益を受けるような、WBCで世界一になった日本よりもアメリカが興行収入の大部分を持って行ったような、システムづくりで負けるケースが日本は多い。
円高など為替政策を含め作戦負けしている場合ではない。Appleボーイングなど世界で大きなビジネスをする米国企業の下請けに甘んじる日本企業。科学分野のノーベル賞取得数は多いのに、優れた技術を持つ企業もあるのに、リーマンショック後に米国の株は持ち直したのに、日本企業の株だけ低迷しているということ。


9.日本は構想力・プロデュース力そして心を打つ発進力を持ちたい。鳩山首相が提唱した東アジア共同体は米国の嫌がる一手でお叱りを受け退陣したのかもしれない。東南アジアには太平洋戦争時の負い目があり日本はリーダーシップが取りにくいのかもしれない。言葉の問題もある。そういえば、テリー伊藤が、Twitterなどソーシャルメディアを内輪で楽しんでいるだけじゃつまらんと、外国人と交流してみせろと二十歳の若者に檄を飛ばしていた。中学高校の英語の授業など海外の学校を連携してTwitterなどで意見交換してみるというのは、結構手始めになるかも。私も漢字ばかり打ってないで、英語で書かなきゃですかな。


10.日本の影響力とは何か?アメリカのように自由や民主主義を他国に積極的に広めるようなものとは違うやり方があるだろう。アニメや音楽などコンテンツ産業や、技術力を活かした環境配慮型のインフラ輸出や、きめ細やかなおもてなしのサービス産業によりアジア諸国の生活者の利便性を高めることなどで貢献する。日本型の人材育成・長期雇用システム、モノづくりは人づくりとして地域活性化に貢献する中小企業の在り方が、高度成長期の東南アジアで再評価されたらいいと思っている。人口の多いインドネシア、フィリピン、タイなどが成長し、太平洋のバランサーになるのも悪くない。


11.米国はオバマ政権が国民医療保険を全国民が加入できるようにしようとして法律は通したけれども、個人主義の強いアメリカでは「皆で保険料を納めて困った人が低額で医療を受けられるしくみ」など嫌だ、知らん奴のために保険料を納めるのは嫌だという反対の声が大きく具体化は未知数らしい。登山家の高桑信一氏は、グループで登山するときは各自の水筒は共有、皆で回し飲みするのがルールだ。しかも、一番疲れている人の水筒から飲んで荷を軽くしてあげるという(『山と渓谷』11月号)。この精神が人々の暮らしに行き渡っている(と信じる)日本的な価値観を大事にして、英語も話せる。そんな立ち位置でいたい★



memo 中国の特異性(byキッシンジャー


①過去の出来事や教訓から物事を判断
②世界の中心・卓越した存在と思う
③気が長く長期戦略による相対的優位を追求
④西欧流の近代化は社会秩序を損なう
⑤自立・自給自足
⑥侵入した異民族を中国化させる文化力や忍耐力
⑦事物は流動的・相対的であり矛盾や不均衡はアリ
⑧完全な征服より調和を、直接的な勝利より心理的優位を狙う(ヒット&アウェイ)
⑨米国とは異なり、自らの価値観を世界に広めようとはしない(ただし中国のやり方には普遍性があると信じる)

おまけ


中国は欧米諸国をどう見てきたか。中国は、欧米諸国には政治的短所があるが、自国の経済と世界の金融システムを独自の効率的な方法で運営する術を知っていると見なし模範とした。しかし、近年の金融市場の崩壊や欧州の誤算は中国が西側に持つ神話を著しく傷つけた。(キッシンジャー←中国萌え