I me Mine

根暗なマイハートのネジを巻け!

五輪書


宮本武蔵五輪書』は人に勝つ方法を説く書物である。


武蔵の時代には、人を斬ることを意味した。
現代においては、ビジネスにおける交渉、それがサラリーマンの生き死にである。


その意味で現代に通ずるものがあると思った。


例えば、戦における矢と鉄砲を比較し、矢は強くないが飛ぶ様子が相手に見えるのが長所であると、鉄砲の玉は見えないと、このことを深く考えるべきだと書いてある。
つまり、弓矢が沢山飛べば相手が必要以上に恐れるだろうということ。これをビジネスに当てはめれば、相手の心を打つ見せ方・説明仕方、影響力の武器があるということ。


そもそも、『五輪書』自体が人に伝えることに十分に気を配っている。人に伝えるときは大から小へ、浅いところから深いところに進まなければならないとし、5つのパートに分けて書かれている。
地、水、火、風、空である。


「地」二天一流五輪書
「水」兵法の基本型(技)
「火」戦いに勝つ理(心)
「風」他流派のこと
「空」兵法の本来の道をおのずから体現するありよう(体)


以下は、印象深い箇所の要点を、書き留めたものである。



まず、心を静かに揺るがせていること。しなやかさと柔軟さが大事ということか。

兵法の道において、心の持ちかたは平常と変わってはならない。心を広く、真っ直ぐにして、緊張しすぎることなく、少しも緩ませず、心を片寄らないように、真ん中におき、心を静かに揺るがせて、揺るぎが瞬時も揺るぎ止まないように、よくよく考え尽くすべきである。


兵法を大工に例え「木配り」が大事だとし、大工が木の特性を踏まえた節のない木を表の柱に、節があっても丈夫な木を裏の柱に、といった具合の適材適所など、職人目線から兵法を説く。

仕上がりが手速く、手際がよいこと、ものごとを荒立てることを許さないこと、状況判断を誤らないこと、大工の気力の上・中・下を見抜くこと、大工の心を奮い立たせること、道理に合わずできないことをわきまえていること、合戦において勝ちを得る理も同じである。


さらには、事に当たる気構えも書かれている。資料に文字を詰めすぎたり、執拗に粘ったり、そういう風に我を強くするとビジネスでも上手くいかないのかなと思ったり。

無理に強く斬ろうとすると斬れない。相手の太刀に強くぶつかると、己の太刀も折れ、砕ける。敵を斬り殺そうと思うときは、強く斬る心でも、弱く斬る心でもなく、敵の死ぬ程合いと思うものである。


また、己の狭い視野で物事を判断しない、常に遠く広くに意識を置き、太刀筋は眼で追わずとも分かるようにすることが大事だと説く。

広い心構えである心と、一つのことに集中する石である意との二つのこころを収斂し、遠く広く見る観と、近く細かに見る見との二つの眼を鍛錬し、少しの曇りも迷いも無い、晴れ渡ったありようこそ、本来の空である。


ビジネスでは、余計なことを言われる前に先回りして摘むべきである。特に上司、客先、専門家などは、一度言ったことを撤回しにくいものである。

敵に技をさせないことが、兵法において重要である。敵の打つという字の”う”の字の頭を抑え、斬るという字”き”の字を押さえて、その後をさせないありようである。


ビジネスでは、会議、商談、イベントなど事前の準備が大事である。企画立案、根回し、プレゼンなど、各段階において重要な局面がある。状況に対応することが書かれている。

難所を超えることを、渡を越すという。船旅にしても、難所を知り、船の性能を知り、風に従い、風が変わっても、二里・三里は櫓を漕いで港に着くのだと思案を定めて船に乗り、渡を越す。兵法においても、敵の状態を受止め、己の熟達している所を自覚し、渡を越す。
渡を越せば、心安らかになり、形成有利に運ぶことができる。


さらに、必要な心がけとして以下の9項目を挙げている。

  1. 邪悪でないように心すること
  2. 兵法の道の稽古に励むこと
  3. もろもろの芸能・技能に触れること
  4. さまざまな職の道を知ること
  5. ことの利害・特失を心得ること
  6. ものごとの良否・真贋を見分けること
  7. 目に見えないところを感得し、察知すること
  8. 些細な事柄にも心を配ること
  9. 役に立たないことに手を出さないこと


おおよそこのような勝つ理を心に留めて、兵法の道を習練すべきである。


おおよそこのような勝つ理を心に留めて、ビジネスの交渉に臨むことである。



五輪書 (ちくま学芸文庫)

五輪書 (ちくま学芸文庫)


兵法の真の道は、武蔵において、理外の理である利方をきわめることであった。
小林秀雄