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根暗なマイハートのネジを巻け!

父と暮らせば

父と暮せば (新潮文庫)

父と暮せば (新潮文庫)


とても簡単な言葉で書かれていて、最後の方はスピード感と凄みがあり、こころにシンシンときた。
被爆で愛する人々を失うということ。
一人だけ生き残ったということ。
戦争を繰り返してはいけないこと。
これからも生き抜いていくこと。
についての話。


一説では、広島と長崎の被爆者は60万人を越えるという。
沖縄戦の死者は20万人を数える。
東京大空襲と硫黄島戦では15万人の命が失われた。


平和を愛するとか、戦争反対なんて大きな声を出すだけではしらじらしい時代。
現実問題として、中国は領土拡大の意思を隠そうとしないし、北朝鮮の存在もある。
石油利権をめぐって戦争も起きたし、テロも心配だ。
鳩山政権の崩壊でなんとなく日米の対等な関係なんて遠い話だと判った。
言い方を変えれば、日本はアメリカに土地とお金を提供して、しかも核の抑止力で平和を享受している。
平和が大切といっても、個人として何をしていいのか正直わからない。

  • 美津江「話をいじっちゃいけんて!前の世代が語ってくれた話をあとの世代にそっくりそのまま忠実に伝える、」
  • 武造「こよな別れが末代まで二度とあっちゃいけん、あんまりむごすぎるけえのう」


だから、沖縄戦没者追悼のこの日にこれらの言葉の持つ意味は大きい。
追悼式で宜野湾市普天間高校の名嘉さんも、二度とあってはならないとスピーチをされていた。印象に残ったのは、彼女が下檀し席に着くときに、隣に座っていたアメリカの将校らしき人と会釈していた姿。
うまくいえないが、アメリカとの戦争で被害にあって、今も米軍基地が残っていて、こういったこと繰り返してはいけないとスピーチしたあとに、普通に米国人と会釈するということ。
こういったしなやかさが清清しく映った。


昔とちがって、今は外国旅行は特別なものではなく、グローバルな交流や情報の行き来がある。年間800万人を超える外国人が日本にやってくる時代。
過去の歴史を正しく踏まえ、前向きに一人ひとりができることをする。
そんな姿勢が、これからは大切だと感じた。


でも、政府が沖縄県民の意思に反してアメリカと約束をしてしまう時代でもある。
戦争によらない紛争の解決手段は「対話」であるが、日本政府は自国民とも対話をせず、あったのは「おわび」
強大な力の前には対話も無力であることを見せ付けられ、やはり無力感を覚える。


ただし、こんな話がある。現在サッカーワールドカップが開催されている南アフリカでは、過去に人種差別政策があって、どうやらラグビーが差別の象徴となっていて、差別反対派がラグビーの試合を300人くらいで妨害したとき、それが全世界に報道されていたため、当局は暴力で排除することができず、試合は中止となった。


試合の妨害がいいとは思わないが、この話のポイントは、世界に報道されていたため暴力で排除されなかったということ。
一人ひとりが平和についてアンテナを立て、それを基本原則として行動し、発信することが大切と思う。


具体的な武力を伴わなければ、平和ボケという人もいるだろうが、紛争の解決は紛争の原因を除去すること。武力も対話も手段にすぎない。
現在の戦争の火種には、石油やレアメタルなどの天然資源をめぐる争奪戦、貧困や内戦などがある。例えば、アメリカは世界の警察を自認しているが、政権が共和党に移るたびに石油利権を巡ってアラブで戦争を起こす。
しかし、その本質は武力対決から経済や企業活動に軸足が移っていると思う。
多国籍企業の活動により、国土と国富は必ずしもリンクしなくなっている。日本企業が中国資本に買収される例がすでにある。中国資本が日本企業として日本の天然資源を活用して富を得て日本に税を納め、中国にも還流させるという流れが今後ありうるとすれば、これからの時代、領土にこだわる理由はないのかもしれない。
実際に、メキシコ湾で原油流出事故を起こしたのはイギリスの会社であるし、アフリカの資源国も外資を活用している。


中国企業がどうだとか、為替介入などで対抗意識を持つのは平和の理念に反するが、もっと話を経済のしくみや、天然資源活用の国際的なしくみなど、スキームで国際協調が図られるようにしていく。
要するに、「戦争意味なーい」と各国が思うような国際的なしくみをつくっていくことが大切だと思う。
正直、国益を考えると、日本は輸出国としてみれば、為替レートの攻防で侵略をうけているようなものだ。円高が日本の輸出企業の利益を奪い国内経済を弱くしている。
菅首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」について、強い企業が実力をそのまま発揮できる「強い国際スキーム提示力」が重要だ。排出ガス取引権など具体的な国際的な取り決めでの不利は、戦争被害のような直接的なダメージはないかもしれないが、本質的に日本の存亡に関わる問題となりかねない。


なんか、好戦的な話になってしまったので、話を読書感想文に戻す。
井上ひさし氏は、簡単な言葉だけど、いろいろな意味を含む強い台詞、キラーパスのような台詞を書く作家のようだ。
本作は、文字数は少ないけれど何度も読んで味わいたくなる作品だ。
最後のやりとりもそうだった。

  • 美津江「しばらく会えんかもしれんね。」


愛とは見返りを求めないものとはいうけれど、うれしいとさみしいが一緒に来て、何もいえない。
清清しさが残り、読む者に力を与えてくれる。


以上。