とんかつ 和幸にて
ヒレ ロース盛り合わせ御膳を食べた。
自分が既にヒレよりもロースを好む年齢となったことを知った。
かつて好んで食べたヒレは、清らかな水がその清らかさゆえに生物が生存できないという一種の毒の感覚で、私の体はそれに抵抗感すら覚えた。
一方、かつて嫌悪したロースの脂身が、娼婦の気だるい手招きのごとく私を誘った。その濁った泉を私の体は歓んだ。
少しすると2人の客が店を訪れ、若い男はヒレかつ御膳を、年長の男はロースかつ御膳を注文した。
若い男はヒレ以外は食べる理由がないという顔をしていた。そこには、かつて人々が笑い、今は自分が笑う、昔の私がいた。